August 27, 2012
みたいもんで紹介されていたのをきっかけとして、「本当の経済の話をしよう (ちくま新書)」を読んだので、それベースの話を経済学の初心者視点で書きます。
数年前、メディアでは「デフレの象徴」として吉野家やマクドナルドが紹介されていたのを見て、
「何故、企業努力で値段を下げたのにデフレと言われるの?!」
と経済学を知らない自分は、つくづく思っていたのだが、やっぱり思っていた通り、間違いだということがわかった。
デフレ、インフレは「貨幣の価値」を示す。
吉野家が280円で牛丼を売っても、円の価値が下がったわけではないのだから、余ったお金で別のものが買えるので、消費はむしろ伸びることが期待できる。
ということで、これ単体はデフレとは全く無関係とのこと。
もし、もらってる給料も一緒に下がって、牛丼にかぎらず、あらゆるものが買えなくなって、結果、あらゆるモノが売れなくなって、あらゆる日本製品を安くしないと売れなくなってくると、デフレということになるのだが、少なくとも吉野家280円の頃は、みんな今より若くて恵まれていて、そんなことはなかったはずだ。
そういう視点で改めて見ると、
「デフレの象徴」
と書いてある。デフレの「原因」ではなくて「象徴」とのこと。
うわーひどい。とんだとばっちり。
デフレ(貨幣価値)は、円高の影響を大きく受ける。
ちょっと前にテレビだったかな、円高は「日本円の価値が高く、国力が高いと思われてる証拠だからいい面もある」と紹介している番組を見たが、今の状況はちっとも良くない。
それって、まるで戦争の時の大本営発表みたいな話だ。
本書によると、円高はアメリカやヨーロッパの金融政策の影響を受けて、「相対的に円の価値が上がってしまったもの」だそうだ。
「相対的」というのがポイントで円の価値が上がっても、日本人のお給料が上がっているわけではないのがその証拠。むしろ全然強くない。
この辺の意味がわからない人は、本書を読んだほうが良い。
むしろ日本の輸出産業が世界から得られるお金が目減りしてしまっている。同じ価値、同じ国内値段のものを作っても、円が1ドル100円から70円になったら、3割引で売ってるようなもの。ただでさえ先進国の日本は人件費が高いと言われるのに、こりゃたまらんと生産拠点を海外に移転してしまい、国内の雇用が減ってしまうことの方が大問題。
いくら付加価値が高くても、価格競争力の後押しにならないと、そこまでの品質を求めていない世界のユーザーには刺さらない。付加価値はライバルもある程度、横並びの品質で競争してないと需要が喚起されない。比較できないから。
皮肉なことに、吉野家が牛丼並を380円に戻してしまったほうが今の方が危機的な状況ではないか。
島国日本は内需があるからこそ、国債で大借金状態でも、ガラパゴスと言われようがキャッシュが回っているので生きていけるのに、日本全体がシュリンクしたり、増税して金回りを止めてしまったら、非常によろしくない。
ある種、恵まれた日本の状況下で生活の損益分岐点を下げて楽しく生きて行きましょうというのは非常によろしくない。一人二人がライフハックとしてやるのは構わないけど、全体として草食化していくと日本を支えていたものが壊れていってしまう。
ノマドが、実はエリート力を持った人しか無理だよね論は、そういう意味では非常に健全な議論だ。人生そのものをライフハックにしてはいけないと思う。
やっぱりみんなで力をあわせて頑張って働いて、世界の中の日本の力を高めていき、日本人が裕福であり続けるしか、生き残りの道はない。
やっぱり女性が夜歩いても、殺されたりレイプされたりするトラブルに巻き込まれにくい国はやっぱり素晴らしい国だ。日本全体が貧困になっていくと壊れていく。
とにかく格差以前に、国全体の貧困はマズイ。
数年前に自分がイメージしていた日本と今の日本はちょっと変わってきている。ちょっと今の家電メーカーの落ち込みは、なんとなく安穏とした対岸の家事とはモードが違うのではないだろうか。
製造業依存の日本の方向転換は必至なのではないだろうか。
でも、それは地方に相当の痛みを持つと思う。一部上場企業の安定した所得分配を担っていたのが地方の生産拠点だったハズ。それがなくなってしまうのは…。
どうしても製造業視点で話をしちゃうけど、B2B用途の部品や重電方面は好調のようだが、やっぱりB2Cのフロントに立つべき商品にワールドワイドでの市場優位性がないと、パーツビジネスは早晩コモディティ化して価格優位性を失う。広告ビジネスやメディアなどの周辺ビジネスもシュリンクしていく。市場規模に依存したビジネスは儲かるは儲かるだろうがワンオブゼムの集団に入ったら利益は最小化されていく。高付加価値を目指した日本は何処へ。
品質だけではイノベーションが起きないという文字通りの現象が、今のシャープの液晶を代表として起きている状況ですか。
例えばiPhoneを作るアップルの立場で考えてみれば、シャープでしか作れない液晶を採用して、価格コントロールの主導権をシャープに明け渡したり安定供給のリスクを抱えるより、サムソンやLGも作れる品質の液晶だけを採用して、横並びで価格を叩いたほうがいいに決まっている。
これを打破するには、シャープの液晶じゃないとiPhoneは売れない、という状況を作ることだけど、つまりiPhoneに負けないライバルを作ることだ。それを誰がやるか?!ってのを、もし他のメーカーに委ねたら、それはいわゆる下請け根性という話であり、シャープ自身がやれるに越したことはない。やっぱり先端に立てる会社は、お金があるうちに、もっともっと頑張って欲しいし、もし、それができないのなら、国全体としては早めに違う方向に活路を見出さないと手遅れになりかねない。(なってる?!)
デフレが改善されないのは金融政策の影響を強く受けるそうで、結局構造不況と言われればそれまでだが、とはいえ産業の側が継続性のある状態じゃないと死にゆく花に、短期的な栄養剤を与えているだけになるかもしれず。内需拡大と国内の雇用を支えられる産業の存在は必須。
と、書きすぎると、所詮断片的な知識でボロが出てきてしまうので、この辺でやめておくとして(ちゃんと教えてくれるツッコミは大歓迎!)、本書の話に戻すと、TPPに関する話と、欧州金融危機の原因である、ギリシャが実は元々、デフォールトの常連でした、という笑えない話が出てくるのは必見。
むなしいことに経済の合理性とは違うところで世界は進んでしまい、その結果、日本を含む、世界中を巻き込んだ状態になってるのは、原発の話を思い出すし、それを知るとニュースの見え方が変わってくると思います。
まだ読んだことないなら、この名著も是非!
経済ってそういうことだったのか会議 (日経ビジネス人文庫)