July 11, 2012
僕はベンチャー社長の本が苦手である。
大体、東大、京大、慶應、早稲田あたりの一流大学を出たサイヤ人が、持ち前の根性と頭の良さで、新しいビジネスを成功させる話で構成されていて、なんというか凄すぎて参考にならない、みたいなのが苦手なのである。(同様の理由でジョブスの本も読まない)
と思ってたら、今回、オイシックス創業者の高島社長が書かれた「ライフ・イズ・ベジタブル」という本を献本いただいた。
まさに東大出身、負けず嫌い、学生時代からリーダー気質。そりゃ最後の要素は成功する社長には必要なことなのかもしれないけど、
「あ、やっぱりサイヤ人だ」
どことなくコンプレックスな感を抱きつつ、読み進めると2つのことが見えて来た。
まず、その前に背景であるが、オイシックスが創業した当時、2000年の段階で生鮮食品をネットで売るお店は沢山あったけど、それを専業ビジネスにするのは相当難しいことだった。アメリカでは、オンラインの食品雑貨販売である「Webvan」というサービスが、華々しく散ったのが2001年。当時はまだAmazonも大赤字で、2002年までは、いつ潰れるかと言われていた。そんな中での生鮮食品は、決して成功するビジネスモデルとは言われなかっただろう。
そこから見えて来た二つの事は、まず一つ。
「相当苦労されて、凄い事をやったよね。」
という素直な感想。
まず野菜を売ってもらえない。生産者はプライドを持って作っていることと、既存の流通システムの中での常識の世界を持っているので、新参者の若者と取引をするなんてことが考えられない。
その中で一つ一つ信頼関係を作っていた。
そして全く売れないサービスオープン。
最初は全く売れなかったそうで改善の日々。しかも資金調達もうまくいかない。苦しい資金状況の中の仲間との別れ、全ての情報を共有すれば良いわけではないという社長としての学びからの孤独。
また成長過程でのパートナーの物流会社の廃業の危機。
順調に仕事が増えて、パートナーの物流会社が仕事をこなしきれなくなってしまったとのこと。
リーンスタートアップのまとめ記事を書いたが、ここで起きていたことは、まさに事業成長段階でのスケールアップの課題そのもので、リーンスタートアップの記事が理論の話なら、本書はまさに実践、実例の本と言っても差し支えないだろう。
リアルビジネスとネットを混合させているオイシックスだからこそ、サーバー負荷よりも先に人間の方が破綻してしまうという事例だった。
実際に起きる問題とは、こうも大変なものなのか。
そして、もう一点本書から読んだのは、
「やっぱりこの人凄いよね」
緻密さというのでしょうか。
本書の中に出てくる、実際に打ち合わせで使っていたノートのキャプチャ画像に書かれていることが、生々しい状況を伝えると同時に、非常に理路整然と書いてあり、危機の時にも冷静さを感じる。さすがコンサルティング会社で修行した、という部分もあるのでしょう。
また仕組みを作るのがうまいな、と感じた。
大学のサークルから一度社会人経験をする武者修行に出て、チームのみんなが再度集合するという約束を仲間としたこと。これは東大を出た筆者が、エリートのレールを降りてチャレンジできなくなることに対する予防線だった。
またピンチの時に、そのピンチを楽しむために、お菓子を買い込んで会議室に入って行くという話や、テーマソングを決めてピンチに立ち向かう空気を作る話など、広義のゲーミフィケーションとでも言うのだろうか、場の演出家としての力があるのだろう。
そういったところと、おそらく熱い方なのであろう人柄に、組織作りへの個性が際立つ社長さんなのだなと思った。
後書きに、各エピソードについて盛っています、ということが書かれていて、正直な方なんですね。社長中心の話になってしまったことも触れて、もっと社員が活躍するような話にしたかったと書かれていましたが、十分読み取れる話だったと思います。
野菜販売という日常当たり前に、しかもスーパーや八百屋で簡単に手に入る商品。野菜そのものは必ず売れるとわかっていながらも、何故わざわざネットを介して買うの?というところから大きな売り上げを上げて行くダイナミズムは、難しさと驚きを感じざるを得ない。とても参考になる一冊だと思います。