May 20, 2012
定期的に出る、「エレガントなデザイン」より「ごちゃごちゃしたデザイン」の方が売れるという話がある。
よく楽天市場のショップを揶揄する言葉として使われるが、最近は、eBayにもこんな話が出て、どうやら世界共通に通じることらしい。
eBay でヒドいデザインの方がコンバージョン率が高かった、という話
ただ、何故ごちゃごちゃ情報を掲載した方が売れるのか?!ということに関しては、あまり具体性がある記事を見た事が無い。
自分が思うところを書いてみたいと思うが、ある掃除機を売ると仮定して、「引き算の商品説明」と、「ごちゃごちゃしたい商品説明」考える。
■引き算の商品説明
この方法で説明を考える時は、その商品の良さを徹底的に絞り込んで、できる限り一つのメッセージに落としたいと考える。
その結果が、例えば
「吸引力の落ちない掃除機です」
という説明にして売る。
何個かメリットがある場合は、情報に強弱をつけて、ファーストプライオリティのものを目立たせるようにして、それ以降の情報は、小さく扱い、強弱をつける。
決して独りよがりを目指すわけではなく、「最適なメッセージを伝える」ことに専念する。
■ごちゃごちゃした商品説明
とにかくメリットを書く。「大きな文字」や「写真」、「顧客からの声」、「専門家の声」などと発言主体を巧みに切り替えて飽きさせない中で、とにかく沢山の情報シャワーを浴びせかけて、全てが目に入るようにする。
「安い!」
「パワーが強くて、ガンガン吸ってくれます!」
「子供の喘息のために安心して使えます!」
「犬の毛を沢山吸っても壊れない!」
「取り回しも楽で、狭いところの掃除も楽々!」
「電気代が安くて、1年間でこれぐらい節約できます」
「うちのおばあちゃんが喜んでくれました!」
等々…詳しくは楽天の売れてるショップを見てください。
では、何故後者の方が支持されやすいのだろうか。
1.エレガントなデザインにありがちな「テキスト軽視」の法則
Amadanaという家電デザインをする会社のECサイトがある。一見、素敵なサイトのデザインなのだが、商品説明の文字が小さい。小さすぎる。
もしかして、Webデザイナーは本質的に日本語テキストが嫌いなのではないだろうか、とさえ思う。
Webブラウザではテキスト情報の文字フォントやサイズが機種によって違うし、日本語フォントはあまり美しくない。Photoshopレベルで考えたようには作れない。
もしや「デザインには邪魔なもの」扱いしてはいないだろうか。
情報の強弱という観点から、商品説明の文字が小さいのかもしれないが、本当は商品説明が大事なので「弱」にしてはいけない。
実際にやってみるとわかるが、ここで商品を買うのは結構苦労する。また、情報デザイン側の問題なのだが、説明やリンクが足りない。あとちょっと何かおかしい。
2.顧客を子供扱いしてしまう。
どうしてもデザインや情報設計の中でユーザーのリテラシーが低い事を前提に、どう伝えるか?!ということをやってしまいがち。
わかりやすくするのは大事だけど、減らし過ぎ、シンプルにし過ぎ、というのがある。割と本能的なところではないかとは思う。
顧客はバカじゃないし、情報の取捨選択も勝手にやってくれる。人間は都合の悪い情報を一瞬に判別して捨てる。なので、「次の選択肢」で迷わなければ良い。
楽天などでの売れ線ショップのデザインは縦一方向にスクロールすれば次に行けるのが楽。ハイパーリンクを使って構造化したら迷うだけだし、クリックのコストは高い。iPhoneのスワイプのナビゲーションデザインが支持されるなら楽天ショップの一方向デザインはアリだと思う。
楽天ショップのような圧倒的なパワーで、とにかく情報を読ませるというデザインはそれはそれで難しいかもしれない。特に信条にあわないからとプロであるほど苦手かも。
3.顧客が何を求めているかは千差万別
その商品が良さそうなのはわかった。でも、心の「ヘェボタン」は、購入者の心の琴線に触れたときに押してくれるのではないだろうか。
今、この商品の良さの何が刺されば買ってくれるのか。対面営業なら会話の中から糸口を見いだせるかもしれないが、Webページは静的に情報が並んでいるので、購入者の側が自分でメリットを見つけられないと買ってくれない。
その中で、「吸引力の下がらない掃除機」・・・うんうん、わかった。でも、今欲しいのはそれじゃないんだよねぇ・・・。
先ほど、
「安い!」
「パワーが強くて、ガンガン吸ってくれます!」
「子供がいても安心!」
「犬の毛を沢山吸っても壊れない!」
「取り回しも楽で、狭いところの掃除も楽々!」
「電気代が安くて、1年間でこれぐらい節約できます」
「うちのおばあちゃんが喜んでくれました!」
と書いたが、もしかしたら、今の掃除機に問題点があったり、生活の悩みがあったりして掃除機を見ているのかもしれない。
そうしたら、実は一番の解決したい課題は、
「犬の毛を沢山吸っても壊れない!」
かもしれない。
引き算のデザインでは表現できないことだろう。
■常に不適切(不確実)な情報設計であることを認識する。
状況は常に変わる。
その商品が○○TVで紹介されれば、そのことをデカデカと商品ページに表示して、ユーザーの目を引く事、および検索エンジンに番組名などでひっかかるようにしたくなるのは当然のことだろう。
つまり、静的ページ制作で取られているウォーターフローのプロセスではなく、商品を売る側が、ガンガン更新する方が絶対的に正義だ。
よって「必要なものだけを伝えるデザイン」では対応できない。
冒頭に紹介した記事でも気になったのが、
「デザインがヒドいほうが実際はコンバージョン率が良い」 「ちょっとくらいとっ散らかってたほうがお買い得に感じられるんじゃないか」
これはあまりにも思考停止してないだろうか。もしくはユーザーをバカにしてはいないだろうか。
問題は、そこに何の命が吹き込まれていたか、ではないだろうか。
「とっ散らかっていた」という表現は、まるでゴミがバラまかれているような表現に見える。
実際は、そこ書いてあったのはゴミじゃなくて、商品を売るための「命」だったのではないだろうか?
デザイナーはその部分にまで踏み込んで考えて、逆にあなたには何が足りないのかを考えなければ、この話は、永遠に繰り返されることになるし、永遠に「売れるデザイン」はできないのではないだろうか?