December 21, 2008
blogを最初に始めたときから今でもMT2.6を使っているのでそのレベルで認知が止まっているのだが、MTが良かったところを改めて書いてみようと思った。
MTを使う前は、掲示板スクリプトと掲示板の管理画面を利用してblogライクに使いつつ、2ちゃんねるに出入りしていた混沌としていた時期があったので、Web日記系は全然知らないので、「それ当たり前じゃん」ということもありうることを先に明記しておく。それ以前に、僕自身の固定観念に基づいているのでそこもご容赦ください。
■その1.優れた管理画面の情報設計
一番最初に感動したのは、管理画面の使いやすさだった。
メインカテゴリが最上段に設置され、左サイドに中カテゴリと小カテゴリが縦に並んでいる。
この時代にもContent Management System(CMS)というものがあったが、CMSと言えば拡張を意識し「どうにでも拡張できる構成」にするがために、拡張可能性ありきで、無駄が多いナビゲーションになりがちだった。
このナビゲーションは機能がfixしているから取れるナビゲーションじゃないかと思ったものだ。
複雑なWebのコンテンツを管理できるシステムが、こんなエレガントに整理されてるのは初めて見た!という印象だった。
これが今だにMT2.6から移動しなくても良いと思っているポイントでもある。
今となってはブラウザ対応などの点で何点か困ってはいるけど死ぬほど困ってるわけでもない。
■その2.カテゴリがあってもなくても良い設計
CMSは、先にカテゴリを設定して、そこにコンテンツをぶらさげるというのが当たり前だと思っていた。
ということは先にどういうカテゴリを作るか?という設計から考えなくてはいけない。
MTはそうではなかった。MTはカテゴリを設定してもしなくても記事を書くことができる。
それに、あとからカテゴリを追加してもちゃんと動く。
コンテンツカテゴリが情報構造のプライマリ情報ではない、というところは、カテゴリはコンテンツの上流にあるべき、という先入観に対して、目から鱗だった。
カテゴリが先にあるシステムでは、ユーザーニーズとして大体、ややこしいカテゴリ管理が求められる。登録順とは別に、カテゴリ自体の並び順、サブカテゴリの並び順、コンテンツ自体の並び順、が求められる。これがあるだけでシステムの理解がややこしくなる。
CMSではなく、Personal Publising Systemとして作られたMTでは、カテゴリはサブ情報でしかなく、時間軸にのみ並ぶコンテンツ構造に割り切っている。これにより記事を書くことだけに集中して、簡単にネットにコンテンツをアップできるようになっている。
しかし、それが企業にウケた。おおよそ向かないのでは?と思うような商品情報などのストック型のコンテンツもblogを使ってアップするケースもある。「かくあるべし、でも使われない」ではなく、「簡単にできる、その範囲で頑張る」というスタイルでウケているというのがビジネスブログの現状だと思っている。
■その3.RSS、トラックバックによるトラフィック環流の仕掛け
昔、主に企業をターゲットにしたCMSを売っていて、イントラでのCMS間の更新情報の連携の仕組みをXMLで相互に通信したら良いんじゃないか?と企画書ぐらいまで書いてたことがある。
当時すでにRSSが存在していたと思うので、RSSという言葉にたどり着かなかったのは無知以外の何者でもなかったが、それ以上にビジネスがそこまで到達していなかったので実装のプライオリティは低かった。
また、その時に考えたのは、CMS間の信頼関係、掲載の可否などややこしい手順が必要で、本当に必要とする人しか掲載することができないだろうなと。
それがトラックバックでは、特定のURLを管理画面に入力するだけで、相手のブログページに強制的に掲載される。もちろんその分、コンテンツの規模は小さくて、メインコンテンツの従属的な情報として、ブログのエントリーに紐尽く世界を作り出すことができる。
「こんな適当で良いのか?」と思ったものだ。
結果的には、こんなシンプルで良いはずはなく、スパムの温床となり、放置されたブログに送られれ続けるトラックバックでレンタルサーバーは悲鳴を上げている。(レンサバが重くなる要因に、この自動トラックバックスパムによるMTの再構築コストは無視できなかった。何せ時と共にみんなのMTがどんどん重くなっていくわけだから。)
しかし、それに伴って、ブログをやる人のトラフィックが相互に増えていき、SixApart社は高いアテンションを得たのだから、この成果自体は全然、無視できない。何よりWebというアーキテクチャを実に生かしたシステムだと思った。
システム屋が一瞬で思いつく不安計数無限大の「最悪なケース」に現実が到達する前に、会社が大きくなって次に進める準備ができるんなら、それもアリじゃなのかも、というのがビジネス的に学んだことだ。
また時代的にGoogleとSEOという言葉が出てきたことはMT躍進にとって無視はできない。「何故かblogはSEOに使える」という言葉こそがビジネスに浸透する何よりもの材料だった。それまで、なかなか作り手側が頼む側もデザインや工数の都合で脱することができなかったテーブルレイアウトからXHTML + CSSという構造に移行するきっかけを与えたのがMTだった。それはビジネス的にXHTML + CSSを利用するメリットが生まれたからだ。
(ちなみに今でもテーブルレイアウトしかできないままでメシを食ってるWeb屋は存在する。このブログを読むような人には信じられないであろうが事実だ。多分、こういう人が一番利益率は高いんじゃないかな。)
参考:
スラッシュドット・ジャパン | ブログは死にゆく技術か?
■その4.ユーザーに適度にHTMLを扱わせることで実現した柔軟性
CMSのお客さんがWebが全然わからない人の場合、コンテンツ編集システムの管理側が複雑になりがちだ。いわゆる「管理画面」的に、情報の論理構造の一つ一つがフォームに紐尽く形で沢山のフォームができていきがちだ。つまりDBのカラムがどんどん複雑化して、結果的にカスタマイズコストがかさんでいく。
ECの管理画面はそんな感じだし、MTでも「ここは社名」「ここは説明」などとカスタムフィールドのような機能で拡張するケースも多いだろう。
MTそのものは、基本的に複雑なところはばっさり切り捨てて、HTMLベースのテンプレートを編集することで対処させている。これが故にプラグインによる拡張性が得られていると言うのは無視できない。
結果として、制作会社がテンプレート部分と構築を担うというビジネス経済圏ができたというのは面白い。
しかし、ベンチャーのWebサービス事業者なども、段々、「如何に初心者に使いやすくするか?」というところで頭の方がややこしくなっていて、「これでいいじゃん」的にハードルを高くして全体をシンプルにするという発想ができなくなっているかもしれないな。
そもそもMTは敷居が高いまま、「沢山の人が使いたい!」と思ったシステムなのに、そこで育ってきた事業者が、「初心者はこういうものは使えないからダメ」と袋小路に陥っている感は否めないのかも。(かと言って、Googleが作るような高度なクライアントサイド実装のWebアプリまでは作れないし、とか。)
■その5.高度で柔軟なテンプレートシステム
上で既に内包されてるかな。
基本理念があってこそ、これが可能になってるということは無視できない。
■その6.Personal Publising Systemとして無駄をそぎ落としつつも高度な機能
これも同じ。
■その7.シンプルなDB設計
え、これだけ?みたいな。
■今後MTはどうなるべきか?
MTが実現した世界には2つあって、一つは、ややこしかったコンテンツ管理システムをものすごくシンプルにしたということのようだ。
シンプルにしたことで、コンテンツ生成のコストが低くなりユーザーが増えてきたという流れ。
MTを作っているSixApart社がビジネスとしてプロダクトを作っているわけだからMT自身の進化の方向性は企業戦略に沿っていくことになる。
MTの進み行く道としては、一度、敷居を低くしたことで得たユーザーベース、ブランド力をベースにして、高度なCMSへの進化を狙うという方向性なのだろう。
その方向性としては、現在進めてるようなコミュニティ路線と、twitterなどを簡単に取り込める「Web2.0型CMS」の路線、もう一つが王道のCMSの路線の追求、だろうか。
(参考:今日のMovable Type:Movable Type: Motionにシックス・アパート社の開発魂を感じた: 世界中の1%の人々へ)
もう一つMTが作った世界はトラックバック、RSSによって新しいWebのトラフィック環流の世界を切り開いたこと。
理想としては、これに変わる新しいイノベーションができたら次のステージに進めるような気がする。
ここの道は、セマンティックWebを、如何に情報発信の欲求に落とし込むか?というあたりなのかな。今じゃないけど。
可能性としてはセマンティックWebを如何に簡単にするか?あたりは十分に期待できるような気がしている。その際には、今のようなStatic型のCMSの時代ではないかもしれないし、ターゲットは企業かもしれないけどね。
結構、僕みたいにMT2.6で満足してしまってる人がいると聞く。それは、基本的にブログの世界と言われる物がMT2.6で完成していることと、シンプルで拡張性が高いからということだろう。わざわざMTのプラグインとして実装しなくてはできないことが増えてくれば、それを内包したシステムとして勝手にバージョンアップするだろう。そこのサイクルを作れるか?がカギかもしれないね。
(まぁ個人的にはURL仕様が変わったことが最大の面倒くささに繋がってるんだけど。)
ところで。。。
MTって、twitterに似てるかもしれないね。ツボをついたシンプルなシステムで、サードパーティ開発者が、思わず突っ込まざるを得ない世界。「拡張したい」「拡張できる」というニーズと手段を喚起するような世界がそこにあったということ。
この両方にCheebowさんがいるというのも象徴的ではないだろうか。
MTがビジネス的に進化する時にこの魅力だけはうまく維持していけると良いですね。お互いwin-winでお金持ちになっていくというのも悪くはないでしょうが、その場合は敷居がどんどん上がっていくので、入り口のフォローも忘れないように。
12/23 追記:
奥さんの会社でMTの本書いたらしく、今日からAmazonに表紙の写真が表示されたそうです。
ターゲットはまさに初心者向け。「これからはじめる MovableTypeの本
著者の一人、#fc0(エフシーゼロ)のやまもといずみさんは、スクールでの講師も勤める制作者でもあり、コミュニケーション能力の高さには制作者界隈では定評があります。また、#fc0の片割れで、僕の奥さんでもあるふうりは、大学で小学校の教員養成課程に通い教員免許を持っており、Web屋として変わり種の経歴を持つ人間。
二人とも「人に教えるプロフェッショナル」なWeb屋さんです。
本書は、2xUPの上ノ郷谷さん監修で、関社長のコメントを帯にいただいております。