August 14, 2008
スカイ・クロラ見ました。
結果から言うと、シーンの一つ一つに、その先のストーリーを想像したり、重ね合わせたり、何か考えたりできない人じゃないと、楽しめない作品かもしれません。行間を読むというより、行間に何かが見えてくる映画。静かなシーンの連続にわかりにくいと思う人と、わかりやすいと思う人がまっぷたつに分かれると思う。
で、思ったのは押井守の作品が、ジブリ映画のように大企業がスポンサーになって押井守専用PCを出してみたり、ポニョと並列でTVでPR番組を流したりしてるのが、一切馴染まない映画ですね。
エンディングロールで、そういう企業が多数並んでいるのを見ると、それはビジネスとして成立しているのかがとても心配だ。
というのも、大企業がお金を出して狙うのは短期的な利益だろう。押井守の作品は、この先10年語り継がれていく作品という趣が強いので、スカイ・クロラを軸にしたタイアップ商品の展開はとても難しいし、売れるとも思えない。
そんなところに魅力があるわけではないし、もし、コスト的に大企業にスポンサーになってもらわなければ制作が立ちゆかないとしたら、それは大きな矛盾を持ってしまってるように感じる。
例えばポニョが狙えるところは明確だと思う。家にいる子供を黙らせ、お母さんが一息つくためのDVD市場というのがあると思う。そして、そこで得たイメージと認知を中心に、さまざまな企業のタイアップが成立しうる可能性がある。いわゆる明快なコンテンツビジネスに結びつく。
しかし押井守は違う。たけくまメモの言葉を借りれば、
それってリアルだけど、はなはだ辛気くさい話で、押井守は鬱映画の巨匠だという思いを再確認しました。
という言葉がぴったり、そんな印象だった。
内容的には結構、イノセンスと似てると思うんですよね。イノセンスが人形やサイボーグという【特殊な存在】で、スカイ・クロラは、キルドレという【特殊な存在】。イノセンスが、「それは、いのち」というサブタイトルをつけたところからして、共通点があるのかもしれない。
先日、フックというアメリカの映画を見たのですが、ここで描かれていたのは、オトナになることを選んだピーターパンと、その世界を望まず永遠の子供でありたいと思うネバーランドの子供達という構図でした。ネバーランドにいる子供達は、毎日平和に遊んで暮らしています。僕はそれを見て、結構辛いなと思った方です。
それに対してネバーランドを出てオトナになって、子供を作り、仕事人間になってぶよぶよに太ってしまったピーターパンは、フック船長に捕らわれた子供達を助けるべく昔の自分を思い出し子供の頃のピーターパンの能力を取り戻します。しかし、昔の能力を取り戻すのに必要だった「自分にとって楽しいこと」は、結局「自分の子供を愛している幸せ」という責任ある成長したオトナの姿を自覚したことだったのです。
かくしてフック船長を倒したピーターパンは、子供達と一緒に責任のあるオトナの世界に戻ります。
フックとスカイ・クロラは共通点があると思う。映画フックに出てくるフック船長は自殺願望がありました。それは永遠に進む時間の中で、自己の存在意義に疑問を持ったからです。
スカイ・クロラは主にオトナになれないキルドレ達のストーリーであることに対して、フックに出てくるピーターパンは、オトナになりたくないネバーランドの子供達や、オトナでありながら成長しないフック船長の葛藤、そして、オトナになる選択ができたピーターパン。責任を持ったピーターパンは、暖かい家族も子供達もいる幸せな家族像が描かれている。
そういう意味ではピーターパンの方が圧倒的に幸せだ。そして理想的なアメリカ人の家族像に戻ることでお客の共感と安定を得るように作られていると思う。(それがハリウッド映画パターン)
スカイ・クロラはそういうのとは無縁な世界を通じて、現実に存在しうる閉塞感というリアリティを感じさせようとしている。
もし同じ哲学を持っていてもエンタメ方向に生かすのであれば、うる星やつらという世界に戻すことで自動的に前に進んでいく「ビューティフルドリーマー」や、今の夢と現実はどちらが幸せか?を問いながら現実の自由を求める「マトリックス」になるハズだ。
そうやってお客が「単純に楽しいと思える」ストーリーという制約を生かしながら(つまりお金儲けに寄与しながら)、自分たちの表現したいものをうまく織り込んでいくのがコンテンツビジネスのありようだと思っていた。
しかし、今の押井守はそういうエンタメ的な概念をもはや超越しているように思える。主人公のポジティブさをうまく利用して無難に映画を盛り上げるなんて意識は全く無いように思える。
(原作がそうなってるだけかのかは知らないのだが)
ビジネスとしてのアニメ制作と、彼の表現が不釣り合いなのであれば、ひょっとしたら引退するしかないもかもしれないとか勝手に思ったりもする。
僕自身は、押井守作品は末永く見続けたいと思っているが、このまま継続的な活動ができるのかが素人ながら心配してしまうところだ。一緒に活動しているProduction I.G.も上場会社としては、この作品性を貫くのはいささか厳しいのではないだろうか。
いずれにせよ、犬を飼っている人と、日常生活の陰鬱な部分を感じる性格を持つオトナには楽しめる映画だと思う。そうでない人には全く持ってオススメしない。
単純明快でポジティブなハリウッド映画みたいなのが好きな人はインディジョーンズかポニョを見るべきだ。どっちも見てないけど。
(ポニョは、みつばちマーヤを思い出しそうで、なんとなくやだなーと思ってる方(主人公の特異なポジティブさに基づく自己のエゴを貫くために周りを巻き込んでいくというストーリーが苦手なんです))